地下アイドルはご存じでしょうか。 決して、地下にこもっているアイドルではなく、ライブやファンとの交流を中心としたアイドルグループのことです。 最近、このアイドルグループと事務所とのトラブルをニュース等でよく見かけますが、 アイドル側と事務所側のビジネスを紐解くことで、この実態が見えてきます。 そして、今後のアイドル像として、どのようなアイドルが登場するのかも予測してみます。
何故無給ビジネスが成り立つのか
つい最近でも、アイドルグループの無給問題が取り上げられました。 この無給というのだけ見て、ひどいと思うでしょうか、仕方がないと思うでしょうか。 でも、実際に無給もしくはスズメの涙程度のお給料の事務所に所属している人は多々いると思われます。 音楽業界の構造と現在直面している問題について考えてみたいと思います。
みなさんはお給料を貰えなかったら、さすがに会社を辞めたりバイトを辞めたりすることを考えると思います。 これは、仕事を仕事として捉えているからその発想ができるのです。
では、その仕事が自分の夢だったとしたら、どうでしょうか。 その夢のための道が、いまこの道しかないとしたら、あなたはすぐに辞めるなんてこと言えるでしょうか。
きっと、その夢に一歩一歩近づいている感覚があるのであれば、答えは「NO」だと思います。 やっぱり、夢は叶えたいし、夢をいつまでももって生きていたいですよね。
夢を叶えるためという、この無給・薄給ビジネスというのは、その「夢」を実現したいと思う人がいるからこそ、成り立っているビジネスです。
その夢とは、別にアイドルに限るものだけではありません。 例えば、漫才師でもそうでしょうし、プロスポーツ選手だってそうかもしれません。 人は、この夢というものを、自然と苦労するものだと認識し、辛いときには逆に夢に向かっていると錯覚しがちなのです。
そして、夢を叶えたいと思う人に対し、実際になれる人のバランスがあまりにも極端なため、 需要と供給のバランスにより、買手市場になっているのが、アイドルビジネスなのです。
アイドルになりたい人はたくさんいる=買手市場
アイドルってなんか響きがカッコいいし、あこがれる職業だと思います。 その芸能界というと、非常にきらびやかなイメージがして、美男美女が揃っており、誰でも一度はあそこで仕事がしてみたいと思うはずです。
しかし、この世界に飛び込んで、成功する人はどのぐらいいるでしょうか。 メディアに出ている人なんて、ごく一部の選ばれた人たちです。だれでもあのステージに立てるわけではありません。
それは才能だったり、運だったり、はたまた、事務所の力だったりとするわけですが、 やっぱり、あのレベルになろうと思うと、並大抵の努力と自分をどれだけ良く見せるかの力も必要になってきます。
憧れる世界だからこそ「なりたい人」はたくさんいるのです。 その「なりたい人」がたくさんいるとどうなるか。超が付くほどの買い手市場になるのです。
需要と供給のバランスがおかしいことになっている
人間だって、商品だって、同じカテゴリのものがたくさんあるとどうしても、価格競争になってしまいがちです。 そりゃ、みなさんも同じスペックのものがたくさんある場合、少しでも安い方を買いますよね? それと同じで、職業に対し、完全に需要と供給のバランスが買い手側にいるため、無給・薄給でも人が集まるのです。
アイドルとは話が変わりますが、某有名なブランドの店員(正社員)さんは、比較的低賃金でも集まるそうです。 これは、企業のブランド力があるがゆえに、憧れの職業として働きたい人がたくさんいるからだそうです。
実際に働いてみて、離職される方も多いみたいで、憧れだけでは難しいなというお話です。
一昔前の就職難の時もそうでした。 就職氷河期と呼ばれる時代に当たってしまった人は数多くいると思います。ちなみに私もそうです。
その時、どんな職業でもいいから、とりあえず働ければ良いという風潮があったと思います。 その世代の人が今、ちょうど転職市場を賑やかにしている世代でもあります。
このように、アイドルという仕事は、憧れの職業×超買手市場という特性から、 需要と供給のバランスが異常になり、無給ビジネスとして成り立っているのです。
では、本人は無給でシンドイ思いをしているけど、実際に事務所の方はどうなのでしょうか。
でも実は事務所側も儲かっていない
実は、事務所側が儲っていると思ってはいけません。決して、事務所も楽ではないのです。
以前、某アイドル会社の収支を見せて貰ったことがありますが、収支はトントンか赤字です。 毎日毎日、ライブ活動をしたとしても、タダでライブが出来るわけではありません。
それには、箱代(ライブ会場代)や、衣装代、スタッフなどにも様々なコストがかかっているのです。
- 箱代(ライブハウス) ※4時間で20万ぐらい@300人程度収容できる場合
- 衣装代 ※衣装代は2万×人数分ぐらい
- スタッフ人件費 ※最少人数で5人程度×2万
- 音響代 ※箱についていない場合は3万程度~
ざくっと計算しただけで、5人グループの女の子が一日ライブしたとして、かかる経費は50万程度。 まずは50万円の収支を合わせるために必要なチケット代を3000円として、トントンになるのが160人程度必要です。
それ以上になれば、儲かるし、それ以下であれば儲かりません。 ちなみに、アイドルの給料は入っておりません。
毎回200人を集められるようになれば給料もでるかもしれませんが、 無名のアイドルが200人を集めるとなると厳しいのです。
厳しい所になると、お客さんを集めるのにもノルマが課せられる場合もあります。 5人で160人なので、一人あたり32人のお客さんを連れてこなくてはいけないわけですね!厳しい…。
また、ビジネスとして見てみると、毎週土曜日にライブをやったとして、最低限の経費として200万かかるわけです。
かなりギリギリなビジネスということが分かると思います。 では利益はどうやって?と思うかもしれませんが、物販はある程度黒字になるため、こちらで収支を合わせているのが現状です。
つまり、グッズも売れない新人アイドルの場合は、完全に赤字です。 給料出してあげたいけど出せないというのが現状なのです。
メディアへの露出はお金にならない
そして、メディアでの露出は、思ったより儲かりません。 新人だと、プロモーション的なものもあるので、TVなどのギャラは非常に安いものです。
ある程度有名になってきてはじめて、メディアへの露出でギャラが入るようになります。 それこそCMのオファーなどがあると、そこではじめて、十分な収入になるのです。
この収入があるまでは、事務所側は大赤字。 売れて初めて収入が手に入るビジネスですので、仕事が無い時などはほとんど収入ゼロです。
もちろん、事務所側のスタッフにも給料を払わなくてはいけませんので、単月でみると赤字なんてのはザラなのです。
ベテランタレントやアイドル達がお金を稼ぎ、そのお金で新しい新人を育てるという構図です。 まあ、これは正直、どこの会社でもいっしょですよね。
新入社員なんて、会社にとっては大赤字ですもんね。
それでもアイドルビジネスをやる理由
ぶっちゃけ「夢」です。事務所側もアイドル側も夢を見て、仕事をしています。 プロデューサーの立場から見れば、自分が育てたアイドルを世に出したいという気持ちでやっています。
石を投げればアイドルの卵に当たるぐらい、一般人でもアイドルになれる環境になってきました。 一昔前の、すごいきれいだとか、可愛いだとかではなく、より身近に感じることがアイドルとしての条件のような気がします。
そして、より一般的になったからこそ、そこに憧れを持つ人も多くなってきました。 私もなれるかもという「夢」がそのままビジネスになったのです。
メディアは有限だけど、その需要を満たして溢れるぐらい供給過多のアイドルの卵達がいます。
でも、やっぱり夢を追う姿はかっこよくて素敵な生き方だと思います。 夢をもたない生き方をしている人たちよりも、輝いて見えます。
では、この状態が続くと、アイドル市場としてはどうなっていくのか不安ですが、 救いの場として、今まさに、新しいメディアが次々とできてきました。
インターネットをはじめとする、ネットメディアです。
ネットメディアに通じるこれからのアイドル像
これからのアイドル像は、まさに今までのマスメディアに流されないアイドルが量産されてくると思います。 というのも、Youtubeをはじめ、それぞれ個人がネットメディアを持てる時代が来たからです。
新しい職業として知られるYoutuberなんてものは、すべての人に可能性があることを知らしめてくれました。 そして、今では十分職業として認知され、小学生がなりたい職業にランクインするほどメジャーになっています。
Youtuber、Twitter、Instagrammerなんて、個人をベースとした様々なメディアが登場しているため、 今後は、事務所という縛りすら必要がない時代が来るかもしれません。
そうすると、今度はどうなるでしょう。 マスメディアでの制限をとっぱらった何かしらのアイドルみたいなのが登場するかもしれません。
地下アイドルも地上アイドルも、元アイドルも、すべての人にチャンスが到来していきます。 おっさんアイドルなんてのもありかもしれません。
はたまた、これからのネットメディアアイドル達はどうなっていくか、マーケティング的にも見守っていきたいですね!
PS:そういえば、この前のSMAPの72時間テレビも、TV業界を震撼させた出来事でした。 TVメディアは利権の塊です。その利権をとっぱらってしまった元SMAPたちに賞賛を送りたいと思います!
アイドルだけではなく、特にマスメディアの人たちは、この現状をどう思っているのでしょうか。 うかうかしていると、完全に個人に飲み込まれてしまう可能性もあるんじゃないでしょうか――。